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「さくらん」のDVDを観る [映画・BD・DVD]

写真家・蜷川実花の初監督作品として話題を呼び、今年の春かなりの観客動員数を記録した映画「さくらん」のDVDを観た。

原作は「ハッピー・マニア」、「働きマン」などの売れっ子漫画家・安野モヨコ(ちなみにダンナは「エヴァンゲリオン」庵野秀明)、監督は演出家・蜷川幸雄の娘で写真家の蜷川実花、脚本は「タカダワタル的」などでは監督だったタナダユキ、音楽は椎名林檎、主演はモデル出身で現ロック・シンガーでもある土屋アンナという、女性パワー炸裂の映画である。

共演者は土屋アンナ演じる主人公・きよ葉(花魁となってからは日暮と名乗る)が身を置く遊郭「玉菊屋」の主人に石橋連司、その女将に怪演を見せる夏木マリ、先輩の花魁(おいらん)役には菅野美穂木村佳乃、きよ葉の8歳から花魁になるまでのすべてを見て来た、きよ葉とは微妙な関係の男に安藤政信、浮世絵師役の永瀬正敏、きよ葉が仕事上の立場を忘れ相思相愛となる小間物屋の若旦那に成宮寛貴、きよ葉の身請けを申し入れる大名役に椎名桔平など多彩で豪華。
カメオ出演、またはそれに近い短い出演で小泉今日子忌野清志郎ゴリなども出ている。
元夫婦であった永瀬正敏小泉今日子が鉢合わせの場面はない。あぶねー、あぶねー(何が?)

舞台は江戸時代の吉原遊郭。そこに8歳で身売りされてから売れっ子の花魁となって行く一人の少女の物語であるが、まず目に痛いほどの原色使いのきらびやかなセットや着物に目を奪われる。
この辺りには蜷川監督の写真家としてのこだわりを感じるが、このDVD化において劇場公開版よりも発色をかなり強めにオーサリングし直したという効果も利いているようだ。

この手の顔は江戸時代じゃモテないだろ、というハーフである土屋アンナのバタくさい顔が最初ちょっと違和感があるが、鼻っ柱が強く、気に入らない客には平気で喧嘩を売るようなハッチャけたパンキーなキャラであるこの主人公には「下妻物語」でヤンキー少女・いちごを演じた彼女でなくては成立しなかったかもしれない。それほど今回のキャラもハマっている。

土屋アンナもそうだが、先輩の花魁役の菅野美穂木村佳乃は体を張った体当たり演技で濡れ場を演じて頑張っているのは見ものだ。
きよ葉の初めての客で、最期まできよ葉のことを気遣っていた大店(おおだな)の主人を演じた市川左團次の存在感も光っているのはさすが。

日本映画には演出や編集のマズさから来るテンポの悪い作品が実に多いが(これは日本人本来のリズム感の悪さから来ていると思う)、私はテンポというものをけっこう気にする。この作品では前半のテンポはいいのに、後半ちょっと間延びしている感じなのが気になった。ただ、ダラダラした感じはあまりないので救われている。
原作を読んだことはないので何とも言えないが、漫画が原作であることを考えるともっとテンポがあってもいいし、きよ葉のキャラももっと破天荒でもいいと思った。

ストーリーにもうちょっとメリハリが欲しい、物語のキーポイントとなる桜の花が淡いピンク色なので極彩色のセットや着物に負けちゃってて説得力に欠ける、ラストシーンへ繋がるまでの伏線が弱すぎてちょっとラストが唐突な感じになっている、といったところは正直言って残念な点だった。

しかし何と言っても映像美という点ではさすがに写真家が撮っただけあって見事な美しさだし、かつては歓楽街・歌舞伎町がテーマの曲を歌っていたこともある椎名林檎の独特の感性による音楽がこの映画の各シーンに違和感なく収まって効果的に使われているというのは特筆すべき点である。

遊郭というと悪く言えば売春宿だが、そこに暗さやネガティヴさなどが微塵もなく、遊郭に身を置く花魁たちもそこへやって来るさまざまな客たちもそれぞれが粋でプライドを持って明るく堂々と生きている様が全体を通して描かれている点はよかった。
いい時代だったのかもしれない。そんなことをちょっと思ったでありんす〜。

あ、ディスク2のボーナス映像はまだ観てないでありんす〜。

製作:アスミック/講談社 2007年度作品 111min.
ビスタ・サイズ(スクイーズ)
作品評価 ★★★☆
画質評価 ★★★★☆
音質評価 ★★★★

「さくらん」Theatrical Trailer;


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コメント 4

milk_tea

この数枚の画像を見ただけでも「うわ!スゴイ!」って感じですね。
ストーリーや展開に多少粗さがあるのだとしても、これだけ目に豪華な映画ならば、充分観る価値はありそう。
私は最近、遊郭の中を生活者の視点でリアルに描く小説を読みましたけど、確かに彼女らに迷いや暗さは全くないんですね。サバサバしたものです。ただ、やはり毎晩何人もの男を相手に肉体労働を重ねるハードさは筆舌に尽くしがたいらしく次々身体を壊していくようです。気持ちより身体がついていかないわけですね。戦前ごろの遊郭では、25才過ぎたら完全に下火で、30才の女にでも当たったら「うわ、ハズレ!!」という感じで、男もげんなりしながらコトを運んだようです。今の世の中、長いこと女を楽しめて本当にラッキーだと思います。
(それとも、楽しんでるのはやはり自分だけで、周囲はげんなりしてるのか・・・?)
by milk_tea (2007-08-10 00:36) 

parlophone

まったく注目してませんでしたが、なかなかおもしろそうですね。
しかし蛙の子は蛙なんでしょうか。
宮崎某が監督した『○○戦記』を見ても、まったくの素人が「血のつながり」だけで監督してもろくな作品にはならないということがよ~くわかりました^^

伊丹十三が監督として成功したのは伊丹万作の息子だったからではなくて、若いころからの映画修行の賜物だと思ってるんですけどね…。

ぼくは演出家としての蜷川をそれほどスゴイと思って観たことがないので、娘が監督をすると聞いてヲイヲイ…と思ったものですが(笑。
土屋アンナは好きだし、MASAさんのオススメもあるので、夏休みにでも見てみたいと思います^^
by parlophone (2007-08-10 01:07) 

MASA

目に刺さるような色彩感覚はかなりインパクトあります。ホントは明治時代の遊郭にあったステンドグラスの襖とか、色とりどりの障子とか、金糸銀糸を使った着物とか、女性ならウットリしちゃうかもです。
江戸時代の遊郭って男限定ながらりっぱな娯楽産業で元禄文化のメインでもあったんですね。その辺はちゃんと描かれていました。

>戦前ごろの遊郭では、25才過ぎたら完全に下火で、30才の女にでも当たったら「うわ、ハズレ!!」という感じで、男もげんなりしながらコトを運んだようです。

まあやっぱりいつの時代もフケてるよりは若い方がいいというのは変わらないみたいですね(笑)。
ましてや昔の30代は今とは違ってものすごくオバサンだったですからね。無理もないかも知れません。

そんな時代と比べると私やmilkさんは見た目も精神年齢も総じて若くなった平成の30代以降の中年世代ですが、独身を謳歌してるっちゃあ聞こえがいいですけど、まあお互いこの年で独身でも色眼鏡で見られることもなくフツーに生きられる世の中になっているのはラッキーかも知れませんねー^^。
by MASA (2007-08-10 01:50) 

MASA

遼さん、どうもです。
私は公開前に予告編で観た映像美と土屋アンナが主演であること、そして椎名林檎がサントラを手掛けたというところに惹かれてDVDを買ってみました^^。

まあ監督としてはズブの素人ですから、ちょっと作りが感覚的すぎてボヤけた感じがするのは正直なところですし、それ以外にも不満な点は見る人によっては少なからずあるかも知れませんね。
でもその辺を差し引いても私の場合は土屋アンナの存在感と映像美だけでけっこう楽しめました。

巷でもわりと賛否が分かれた作品なので、遼さんがご覧になって一体どういった感想をお持ちになるかは分かりませんが、機会があれば是非一度ご覧下さい^^。
by MASA (2007-08-10 02:08) 

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