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棚から1枚・その3/近田春夫「天然の美」('79) [棚から1枚]

私のレコード/CD棚からテキトーに1枚選んでご紹介するこのコーナー、第3弾は1979年に発売された近田春夫のソロ・アルバム「天然の美」です。

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近田春夫というと、今ではすっかり辛口音楽評論家やコメンテーターというイメージが強くなってしまったが、もともとはけっこう古くから活動している孤高のアーティストである。

'70年代初頭に内田裕也1815バンドにキーボーディストとして参加していたり、そののち自身のバンド近田春夫&ハルヲフォンを結成するが、商業的な成功はあまり得られず地道に活動していた。「オールナイトニッポン」のDJを務め、人気があった時期もある。

私が近田春夫の音楽を初めて耳にしたのは'76年に出したハルヲフォンのシングル「恋のT.P.O.」だった。歌謡曲チックで笑える変な曲だなあ〜、というのがその時の印象で、このバンドはコミック・バンドか?と思った。あとから買ったハルヲフォンのベスト盤や名作「電撃的東京」を聴いてその認識は一変するわけだが。

'80年に発売されたハルヲフォンのベスト・アルバム「Time, Place & Occasion」。3枚のオリジナル・アルバムから選ばれた曲や「天然の美」からの曲、シングル・リリースのみの曲などで構成されている。

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今回取り上げる「天然の美」ハルヲフォン解散後の'79年に出た初のソロ・アルバムだ。このアルバムのコンセプトは近田ハルヲフォン時代から追求していた、ロック側から見る歌謡曲へのこだわりと分析。

この2年前に出したハルヲフォン時代のラスト・アルバム「電撃的東京」は'60年代〜'70年代の歌謡曲のカヴァー・アルバムで、郷ひろみ「恋の弱み」、山本リンダ「きりきり舞い」、フォー・リーヴス「ブルドッグ」、平山三紀「真夜中のエンジェル・ベイビー」などといったヒット曲を近田なりの解釈でカヴァーした傑作だ。

'77年発売の「電撃的東京」。上のベスト盤は除いてハルヲフォンが残した3枚のオリジナル・アルバムのうち、残念ながら私はこれしか持っていない。
これに収録されている「恋のT.P.O」はシングル・ヴァージョンとは全くの別テイク。


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「天然の美」「電撃的東京」を更に一歩押し進めた内容で、近田自らをはじめ、宇崎竜童、井上大輔、杉本"吾亦紅"真人、筒美京平、加瀬邦彦、安井かずみ、山口洋子などといった作家たちに曲を依頼し、アレンジは当時デビューして間もない頃のY.M.Oや、様々な歌謡曲のアレンジを手掛けていた若草恵などが担当し、自分はあくまで歌手として歌うというポスト歌謡曲的なスタンスで作られた異色作だ。

中でも楳図かずおが作詞を手掛け、近田が作曲し、Y.M.Oがアレンジを手掛けたテクノ歌謡の元祖ともいうべき「エレクトリック・ラブ・ストーリー」は白眉のナンバー。
特に楳図かずおの歌詞が素晴らしい。この人はこれ以前に郷ひろみ「寒い夜明け」などの歌詞を書いているが、この曲のシュールでありながらストーリー性のある異次元的で不思議な歌詞は秀逸だ。

このアルバムは普通に聴いている分にはただの歌謡曲のようだが、近田がこのアルバムでやりたかったことは自分用のオリジナル曲を使って歌謡曲を歌ってみたらどのような表現が出来るのか、ということの実験であるように思える。
このようなユニークな方法は一見何気ないようでありながら実はまぎれもなく斬新で、ある意味ニュー・ウェーヴだった。

この時期に近田はバックバンドとしてBEEFを結成するが、このバンドがのちに近田が作詞・作曲・プロデュースを手掛けて「ジェニーはご機嫌ななめ」を大ヒットさせるジューシー・フルーツへと発展する。

そのBEEF時代の貴重な映像がYou Tubeにあった。曲は'79年に資生堂バスボンのCM曲に起用された「ああ、レディ・ハリケーン」
'70年代の古くさくて垢抜けない雰囲気漂う客席とは対照的なステージ上の近未来的ニュー・ウェーヴ風のバンドの存在がいい意味で完全に浮いていて、新たな時代の到来を象徴しているかのような映像だ。
ちなみにこの曲の作詞も楳図かずお、作曲は近田自身だ。「天然の美」のCDにはボーナス・トラックとして収録されている。



このあと近田は翌'80年にレコード会社を移籍、2枚めのソロ・アルバム「星くず兄弟の伝説」を出し、長年こだわっていた歌謡曲というジャンルに対して、ここまでのアルバムでひとつの区切りを付けた。

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その後近田は更なる音楽的進化を求めて、ニュー・ウェーヴ色の強いバンド、ビブラトーンズを結成する。
メンバーはのちにサエキけんぞうパール兄弟を結成する窪田晴夫や、PINKへと発展する福岡ユタカ、ホッピー神山などが在籍していた。

'81年発売のファースト・アルバム「ミッドナイト・ピアニスト」

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私が近田春夫をフォローしていたのはこのアルバムまで。ヒップ・ホップに傾倒していくようになってからはだんだん付いて行けなくなった^^;
このあとビブラトーンズ名義でもう1枚アルバムを発表し、近田はこのバンド以外にも様々な活動を行なうと同時に、ザ・ぼんち、ヒカシュー、平山三紀、小泉今日子などをプロデュースし、ヒット・メーカーとして認知されるようになる。

80年代初頭からアメリカのシュガー・ヒル・ギャング、グランド・マスター・フラッシュといった第1世代のヒップ・ホップにいち早く注目していた近田だったが、80年代半ばにはついにラップ/ヒップ・ホップに取り組み、新たなユニット、ヴィブラストーンを結成、黎明期の日本のヒップ・ホップ・シーンで草分け的存在となる。
歌謡曲からヒップ・ホップというこのギャップ、すごいねえ。この振り幅の広さには近田の常に新たな音楽表現を模索する飽くなき探究心を感じる。

その後現在までヒップ・ヒップ系の音楽活動が続き、それと平行して週刊文春に歌謡曲をバッサリと切る辛辣な評論が話題を呼ぶ「考えるヒット」の連載を持ったり、「タモリ倶楽部」のソラ耳アワード審査員を務めるなどしながら現在に至るわけだが、ここしばらくはアルバムのリリースはしていない。

♪クエッ、クエッ、クエッ、チョコボ〜ル〜♪や、♪はと麦 玄米 月見草 壮健美茶〜♪など、CMソングもたくさん手掛け、何とその数1,000曲以上。小林亜星、キダ・タローに次ぐ第3位という意外な側面も持つ人だ。

全盛期だった頃のモーニング娘。の面白さを評価したり、最近ではPerfumeのスゴさをネットのコラムで論じるなど、今でも歌謡曲/J-POPとは縁が切れていないあたり、やっぱり根本的に歌謡曲が大好きな人なんだろう。




残念ながら「天然の美」は廃盤。バカ高いプレミアが付いてます。

天然の美

天然の美

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: キングレコード株式会社
  • 発売日: 1992/11/21
  • メディア: CD

近田春夫&ハルヲフォンのファースト・アルバム「COME ON LET'S GO」

COME ON LET’S GO

COME ON LET’S GO

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: キングレコード
  • 発売日: 2004/04/07
  • メディア: CD

セカンド・アルバム「ハルヲフォン・レコード」

ハルヲフォン・レコード

ハルヲフォン・レコード

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: キングレコード
  • 発売日: 2004/04/07
  • メディア: CD

サード・アルバム「電撃的東京」

電撃的東京

電撃的東京

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: キングレコード
  • 発売日: 2004/04/07
  • メディア: CD


星くず兄弟の伝説

星くず兄弟の伝説

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: インディーズ・メーカー
  • 発売日: 2008/08/20
  • メディア: CD


Mid-night Pianist

Mid-night Pianist

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: コロムビアミュージックエンタテインメント
  • 発売日: 2009/06/22
  • メディア: CD


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コメント 4

がぁこ

遅くなってごめんね~~^^;;
近田春男、、全然知らないぞーーー(笑)
なんだかこうやって見ると楳図かずおっぽい感じがするなぁ^^;
「天然の美」じゃなくって「天素」は知ってる~(笑)
by がぁこ (2009-08-02 03:21) 

MASA

マニアックすぎて全然レスが付かなかったから、がぁこちゃんが来てくれてよかったよ〜(笑)。
でもアクセス数はすごいんだよね、この記事^^

テレビだと最近は「タモリ倶楽部」にたまに出るくらいだから、がぁこちゃん世代の人は知らないかもねー。
昔「ASAYAN」の前身だった「浅草ヤング洋品店」にレギュラーで出てたけどね。
多分それでも知らないか(笑)。

by MASA (2009-08-02 14:50) 

ayumu

近田春夫「電撃的東京」、懐かしい♪
最後はヒップホップになっちゃいましたね。
by ayumu (2009-08-02 20:16) 

MASA

ayumuさんも近田春夫、お好きでしたか^^。
まさかヒップ・ホップ方面へ行ってしまうとは思いませんでしたね。
また歌謡アルバムを出して欲しいもんです。
by MASA (2009-08-03 00:07) 

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