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XTC「MUMMER」 [XTC]

第6弾目となるXTCのアルバム紹介、今回は'83年発売の6th.アルバム「MUMMER」を取り上げます。

多分このアルバムは初期の2枚と並んで人気度は低めではないかと思うが、じっくり聴くと実はこれがなかなかいいアルバムなのである。

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傑作だった'82年の前作「ENGLISH SETTLEMENT」を発表した頃、アンディ・パートリッジは神経衰弱からステージ恐怖症に陥った。これによりアルバムに合わせて予定されていたコンサート・ツアーはことごとくキャンセルされ、Virginレーベル側に大きな損失を負わせたために、その後レーベルから睨まれる存在になってしまう。

アンディのステージ恐怖症はその後も改善されず、結局これをきっかけにXTCは2度とコンサート・ライヴを行なわなくなってしまった。
これ以後はたまにテレビに出て演奏する程度で、活動の場のメインはレコーディング・スタジオになる。事情はちょっと違うが、この辺はまるでブライアン・ウィルソンみたいだ。

そして'82年の8月からこの「MUMMER」に向けてのレコーディングに入るが、これが大変な難産だったのである。
レコーディングの出来に満足しないVirginレーベル側の要請で、レコーディングのたびにプロデューサーやミキサーがコロコロ変わった。

スティーヴ・ナイ(ブライアン・フェリー、ジャパン etc.)、ボブ・サージェント(ザ・ビート、ヘアカット100 etc.)、Islandレーベルの大御所プロデューサー、アレックス・サドキン(グレース・ジョーンズ、サード・ワールド etc.)と、3人もの人物がこのアルバムに関わった。

しかし、なかなかレーベル側の納得のいく出来にならず、アルバム発売に先駆けて'83年の3月に出したシングル「Great Fire」と夏に発売した第2弾の「Wonderland」の売れ行きがそれぞれ振るわなかったことでその度に2度発売が延期され、危うく発売中止にもなりかけた。

「Great Fire」の12インチ(上)と「Wonderland」(下)の7インチ・シングル。
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さらにはレコーディング中にドラマーのテリー・チェンバースがドラムを思いっきり叩けない曲だらけなのが不満だという理由で脱退してしまう。
しかし新しいドラマーは入れずにこれ以降バンドは残った3人だけの編成となり、ドラマーはレコーティングのたびにゲストを呼んで叩いてもらうというかたちを取る。

アルバム発売後に第3弾シングルとして発売された「Love On A Farmboy's Weges」の限定おサイフ型2枚組7インチと、B面には未CD化のライヴが収録された12インチ。
mummer3.jpg

このような紆余曲折を経て、それでも何とか8月にアルバムは発売された。アルバム・タイトルの"MUMMER"(ママー)とはイギリスの伝統的な無言劇の役者のことらしい。スパゲッティやマカロニのメーカーではない(笑)。
聴くと確かにポップさに乏しい地味な出来で暗く重たいイメージが強く、以前までの軽快なポップ・ロックはほとんどない。レーベル側が発売を拒んだのもまあ分からないではない出来のアルバムである。

ここで聴かれる暗めの曲はほとんどアンディが書いた曲で、当時の不安定な心理状態が反映されていると同時に、アフリカやアラブ系のエスニックなものを取り入れ、一種独特の異様な雰囲気を放っている。
しかし前作のような内容を期待した多くのファンはこのアルバムの暗く精彩に欠く内容に失望したものだ。かく言う私も当時は例外でなかったことをぶっちゃけよう。

しかしこのアルバムは聴き込むうちにこういった曲の方がいろんな意味でインパクトが強い分だけ印象深くなってくるのである。「Human Alchemy」などはまるでアフリカの民族音楽みたいな重厚なビートの呪術的な暗さが昔はいまいちダメだったが、今聴くと何だか妙に心地よく迫って来るものがある。

"Human Alchemy" PV


暗めのアンディの曲に対し、ポップで聴きやすい曲で安心感を与えているのがコリン・モールディングの曲。
シングル第2弾となった「Wonderland」はアルバムの中では花が咲いたような明るさに思わずホッとする。

"Wonderland" PV


そしてアルバムの最後に収録されている「Funk Pop A Roll」だけが以前のXTCらしい作風で、この曲を締めに持って来たことでアルバムの印象がかなり救われ、次作に期待が持てる感じで聴き終えることが出来る。

"Funk Pop A Roll" PV


というわけで、傑作だった前作から一転して失速してしまい、XTCにとって暗黒時代と言っていい時期に発売されたこのアルバムは、その暗さが災いして人気は高くないし、セールス的にもパッとせずに終わった。
決して名盤とは呼ばれないかも知れないが、しかし独特の雰囲気を持ち非常に個性が強い内容でXTCの数あるアルバムの中ではいろんな意味で異彩を放っている。




ママー(紙ジャケット仕様)

ママー(紙ジャケット仕様)

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
  • 発売日: 2005/09/30
  • メディア: CD



タグ:xtc
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コメント 8

がぁこ

あ、またETCだっ(≧∇≦)
アーティストの運命。。。?
なんだか紆余曲折の人生模様の方が多い気がしますねぇ^^;
でもファンにしてみるとそういうところもたまらなかったり?(笑)
最後の曲だけはほんとにファンク!って感じでこの作風が本来?って感じなんですね?(゚ー゚*)
by がぁこ (2008-10-03 01:16) 

MASA

だからETCじゃないってば〜^^;
まあね、いろいろあったのよ、このバンド。
リーダーがちょっと我が強い人だった反面ナイーヴだったんだなあ。

そうそう、最後の曲が一番本来のXTCって感じ。
もうちょっと明るくて勢いがあったらもっと評価されてるアルバムなんです。


by MASA (2008-10-03 01:42) 

bluebird

ほんとだっ、またETCだっ(≧∇≦)

神経衰弱からステージ恐怖症って、キツイですね。
バンド内もギクシャクしてたんでしょうね。

ワタシ「Human Alchemy」が一番好きかも・・・
暗くてグロいの結構好き(笑)
by bluebird (2008-10-03 08:56) 

MASA

bluebirdさん、がぁこちゃんのマネをするにはちょっと無理がある年齢でしょ!(笑)。

暗くてグロいのがお好きとは。あんまり意外な気はしませんね^^;
映画もオカルトとかスプラッターが好きなんですかね?
by MASA (2008-10-03 22:01) 

bluebird

ぬあにぃ~~
呪ってくれるわ・・・・(笑)

映画は、オカルトとかスプラッターが特に好きなわけではないんですが、
スティーブン・キングもの・・「シャイニング」とか、
その他だと「羊たちの沈黙」などレクター博士もの好きですよ。
スプラッターはキャラに可愛げがある「13金」とかならOK。


by bluebird (2008-10-05 12:02) 

MASA

ううっ、bluebirdさんの呪いで右肩が五十肩で上がりませんっ〜(笑)。

スティーヴン・キングものは私も大好き、レクター博士シリーズも大好きです。
あとはゾンビものが好きです^^。
by MASA (2008-10-05 15:01) 

pinkisland

相変わらず、珍しいシングル盤をお持ちですね。MUMMERは地味な印象がありますが、なかなか個性的な曲が入ってますね。

XTCといえば、VIRGINというイメージがありますね。
by pinkisland (2008-10-06 06:05) 

MASA

pinkさん、どうもです。
アルバムだけでなく、未収録曲があればシングルも出来るだけ揃えるようにしてるので、けっこう持ってます^^。

このアルバムは地味ですが、意外に好きです。
確かに私もVirgin=XTCというイメージが強いですね。
by MASA (2008-10-06 23:59) 

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