THE BEST OF DAVID BOWIE 1980/1987 [アルバム・レヴュー]
数年前からデヴィッド・ボウィの音楽性の変化にあわせて分けて発売されているベスト盤のうち「1969/1974」、「1974/1979」に続き、この3月に第3弾の「THE BEST OF DAVID BOWIE 1980/1987」が出た。全2作は買っていないが、今回はDVD付きということで買ってみた。
'83年に発売され一躍メジャー人気を獲得することとなったメガ・ヒット・アルバム「LET'S DANCE」が賛否両論を呼んだり、その後のアルバムがどれもこれもいまいち精彩を欠く出来だったりして、まあ熱心なファンなら'80年代のボウィは面白くないという人も多いだろうが、それでもそれなりに聴きどころはもちろんある。
グラム〜ファンク〜ベルリン3部作〜メガ・ヒット・アーティストと音楽性がシフトして行くに連れ、ヴィジュアルもカメレオンのように変容させて来たたボウィだが、収録されている19曲を聴くと'70年代に比べ'80年代のボウィはやっぱりよくも悪くもキャッチーでポップなものが多い。
当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったシックのナイル・ロジャースがプロデュースしたアルバム「LET'S DANCE」からの「Let's Dance」「Modern Love」「China Girl」の3曲はなんだかんだ言ってもやっぱりカッコイイ。特にタイトで正確でパワフルでオカズがナイスなシックのトニー・トンプソンの叩くドラムが快感だ。それまでの独創的な内容に比べ、売れ線狙いが鼻につくアルバムなどと酷評もされたが、そのわりに今聴いても特に時代を感じさせる古くささはあまりない。ちなみに、すべてシングル・エディット・ヴァージョンで収録されている。
そんな中、原曲をボウィなりの崩し方でアレンジしたドアーズの「Alabama Song」のカヴァーなどはこの中では異彩を放っている。アルバムの方はダメダメだが'87年の「NEVER LET ME DOWN」からシングル・カットされたタイトル曲が収録されていないのは個人的に残念。大好きな曲なんだけどなあ。
「Cat People」「This Is Not America」「Absolute Beginners」「Underground」「When The Wind Blows」と映画のサントラがらみの曲が多いのも'80年代の特徴で、これらがまとめて聴けるのがありがたい。
今回のものには初回限定でこの時代のヒット曲のPV15曲を収録したDVD付き。しかも「Under Pressure(ボウィもクイーンも出て来ないけど^^;)」、'83年のシリアス・ムーンライト・ツアーからのライヴ・ヴァージョンによる「Cat People」や「When The Wind Is Blow」、「Underground」の4曲のPVは'02年にDVD2枚組で発売されている「THE BEST OF BOWIE」には未収録なのでファンは要チェケラッチョ!
曲目は以下のとおり;
アルバム「NEVER LET ME DOWN」より「Day-In Day-Out」
これも必見!DVD2枚組のPV集「THE BEST OF BOWIE」
ついでに、発売が延期されていた'75年のアルバム「YOUNG AMERICANS」の最新リマスター盤も発売になった。
こちらは5.1chサラウンド・ミックスを収録したDVDとの2枚組。注文済みだが、出張から戻るまで聴けません〜(泣)。
中森明菜「バラード・ベスト」 [アルバム・レヴュー]
中森明菜のアルバムを買ったのは何年振りだろう。
ここ数年は「歌姫」シリーズとか'80年代のアルバムの紙ジャケ化などが話題になったが、買おうと思いつつも結局いずれも買っていない。
かつては熱心な明菜ファンだったのに、いつの間にやらすっかりその熱も冷めた。
その理由を誤解を恐れずブッチャけると、ある時期から明菜の歌にあまり魅力を感じなくなったからだった。
'80年代の終わり頃からしばらく明菜の歌は声を張らずにボソボソと呟くような歌い方をしているが、ジェーン・バーキンなどのフレンチ・ポップスの歌手たちやあるいはカヒミ・カリィのようなそれとは違い、何かを勘違いしているとしか思えないその歌い方がしだいににつまらなく思えてきたのだ。
ファンはもちろん世間的にも歌唱力が高い評価を得ている明菜の歌にいちゃもんを付けるとはいい度胸じゃねーか、おめーは何様だ?と言われそうでコワいが(笑)、ウマいかヘタかと言えばウマい歌手には間違いない。しかしその表現方法がなんか違うんじゃないかと思えてしょうがない時期が長かったのである。
まず言えるのは暗さ。楽曲そのものにも明るい曲が極端に少なくなり、マイナー調の情緒的な歌が多くなった。かつてのキャッチーな感じもほとんどなくなった。そんな楽曲に輪をかけて敢えて小さな声で押さえたような歌い方で明菜は歌う。
それは単におまえの趣味じゃねーからだろ、と言われればそれまでだが、でも数々のヒットを飛ばしていた頃の明菜の歌はそんなんじゃなかった。
もっとメリハリや抑揚があり、しっかりとした歌だった。それを敢えて不安定で不完全な歌唱法で歌うことが自分だけの自己表現だと思い込んでいたのではないかと思う。若気の至りということもあったのだろう。背伸びして大人の歌手になろうとしていたのかも知れない。それにプライベートでいろいろあったりしたので、そういう精神状態が歌に反映されていたのかも知れない。
しかしそんな明菜も年を重ね四十路に入った現在、そんな歌い方に年齢の方が追いつき、あまり違和感がなくなって来た。
それどころか「これぞ明菜」という境地にまで踏み込んでいると最近思えるようになって来たのである。
そんなわけで今回久しぶりに買ってみたこのアルバム、これまでにいろんなアルバムに収録されていた、かつてのヒット曲をバラード・ヴァージョンにアレンジして再レコーディングしたものを集めた内容である。
曲目は以下のとおり;
1. 難破船(2007 Ver.)
2. セカンド・ラブ
3. あの夏の日(新曲)
4. LIAR
5. 水に挿した花
6. 陽炎
7. 赤い花 08. SAND BEIGE~砂漠へ~
8. SOLITUDE(2007 Ver.)
9. 二人静
10. 月華
11. 予感
12. 初めて出逢った日のように
13. 駅
14. 帰省~Never Forget~(2007 Ver.)
ハッキリ言ってオリジナル・ヴァージョンを超えていると思えるものは少ない(まだ何様発言を続けるのかおめーは)。
「セカンド・ラブ」みたいな10代の恋愛を描いた歌をこの年でマジで歌われてもちょっとツライかも。
しかし、全体的には40代になった明菜なりの表現に満ちた出来ではある。このアルバムのために再録音された「難破船」や「SOLITUDE」、新曲の「あの夏の日」など、今の明菜でなくては表現出来なかったであろう曲も含まれていて、この辺が聴きものだ。なかなか癒し系な感じでじっくり聴けるアルバムとなっていて悪くない。
そしてこのアルバムの目玉で、私が久しぶりに明菜のアルバムを購入しようと思った要因が初回限定で付属するDVD。
デビューの翌年である1983年の明菜のファースト・コンサートの模様をダイジェストで収めたもので、ポッチャリした初々しくも可愛い17才の明菜の貴重なステージを堪能出来る。
最近の友近のモノマネでお笑いネタになってしまったボソボソとか細い声での挨拶はすでにこの頃からやっていた(笑)。
DVDの曲目は以下のとおり;
「春の風を感じて…1983 ファーストコンサートツアー」ダイジェスト
(1983年2月27日 ~ 6月19日、19公演)収録:新宿厚生年金会館
・オープニング~セカンド・ラブ
・ダウンタウンすとーりー
・カタストロフィの雨傘
・1/2の神話
・にぎわいの季節へ
・スローモーション
・少女A
明菜のブリブリの衣装や髪型、どっかの田舎の公民館ででもやっているようなシンプルこの上ないステージングなどが今観ると嫌が応にも'80年代を感じさせるが、それもまた一興。何しろ24年も前の映像だ。
「さー、みんな歌ってー!」♪じれったーい、じれったいー♪と「少女A」で客を煽る明菜も観られる。
30分ほどの短い内容ではあるが、ファンならこのDVDのために購入して損はなし、じゃないかな。
バラード・ベスト-25th ANNIVERSARY SELECTION-
(初回限定盤)(DVD付)
- アーティスト: 中森明菜, 加藤登紀子, 上杉洋史, 来生えつこ, 武部聡志, エリコ, 市川淳, 白峰美津子, 向谷実, 只野菜摘, 鳥山雄司
- 出版社/メーカー: ユニバーサル・シグマ
- 発売日: 2007/03/28
- メディア: CD
中島美嘉「YES」 [アルバム・レヴュー]
3/14に発売されている中島美嘉の4枚目のオリジナル・アルバム「YES」を最近は頻繁に聴いている。
中島美嘉って人にはもともとあまり興味がなかったのだが、'05年に発売された前作「MUSIC」がけっこう気に入ってしまい、DVD付きの初回盤ということもあり今回も一応買ってみた。
今回のアルバムは昨年中島がなぜかアメリカ南部へ音楽巡礼の旅に出た影響で黒人コーラスを多用したゴスペル風味の曲が多く、ちょっと黒っぽい雰囲気が全体的に漂っている。ただ、歌っている中島美嘉本人に黒人音楽をちゃんと歌いこなせるほどの技量やセンスがほとんどないため、あくまで"風味"程度に留まっている。しかし彼女もそんな自分の力量をちゃんとわきまえているようで、決して背伸びはせず与えられた楽曲を一生懸命に歌おうというけなげな姿勢を感じるので好感が持てる内容だ。
アルバムの冒頭を飾る曲は尾崎豊のカヴァー曲である「I LOVE YOU」だが、これがなかなかいい。
この曲にも尾崎豊にも全く思い入れがない私だが、ゴスペル風のコーラスやボトルネック・ギターを加えシンプルなアレンジを施されたこの曲に中島独特の儚げな歌声がまるで長年歌っている自分の持ち歌のようにピッタリとフィットしていて、泣けて来そうなくらい実にいい。こうして聴くとけっこう名曲だったんだねー、この曲。
このあと最新シングル曲「見えない星」、前シングル「素直なまま」と、映画「NANA」以降方向性が見えなくなっていたところで原点回帰となったしっとりとしたバラードが続くが、このあたりがやはり彼女の真骨頂で、こういうミディアム・テンポの曲がいちばんしっくりくる。
中盤に入ると2曲のシングル曲「CRY NO MORE」「ALL HANDS TOGETHER」と本場のゴスペル・コーラス隊をフィーチャーした楽曲で本格的にメンフィス〜ニュー・オーリンズ方面に行ってしまうのだが、ハッキリ言って彼女にここまでは無理!挑戦した意気込みは買うがまるで歌いこなせていないし、ここまでやるのは無謀だ。特に「ALL HANDS TOGETHER」は完全な失敗作だと思う。続くアッパーな曲調の「DANCE WITH THE DEVIL」に至っては最悪。まあ私の好みではないからかも知れないが、それにしてもなあ。
そもそもどーゆーいきさつでアメリカ南部なんぞを目指したのかその意図がよくわからない。"風味"程度で留まっている分には文句はなかったが、レコーディングには大御所アラン・トゥーサンまで担ぎ出し、本格的に黒人コーラス隊をバックに配したところで主役であるかんじんの中島がこれについて来れないことをやってもしょうがない。
これはおそらく本人側からの発案ではないと思うが、だとすると「中島美嘉にゴスペルを歌わそう、ニュー・オーリンズまで旅に出せ」なんていう、中島の個性やポテンシャルを度外視したことを考えたイタいブレーンがどこかにいるはずだ。これでは彼女が可哀想である。
ロックのキャラでは決してない彼女が映画「NANA」でロックに挑んだことにも私は多いに違和感を感じたが、両方とも向いてる方向性が思いっきり間違っていると思っているのは果たして私だけか?。「NANA」に出演して以降異様にマユ毛薄いし。平安時代かよ。ま、それはどうでもいい。
しかしその後アルバムの内容はしだいに持ち直していき、ピアノ1台で歌われる8曲目の「JOY」(ただし、英語の発音はイタダケナイな)や続くちょっとキャロル・キングやジェームズ・テイラー風の「THE DIVIDING LINE」と、中島は生気を取り戻していき、化粧品のCMソングとしても使用された10曲目のレゲエ調のシングル曲「MY SUGAR CAT」が登場するに至ってはそれまでの不満を一気に払拭するかのような素晴らしさだ。PVもいつになく可愛い。
続く3曲も中島本来の持っているよさを生かした楽曲が並び、このまま気持ちよくエンディングを迎えるかと思いきや、ラストにルイ・アームストロングの今やコテコテとなったナンバー「WHAT A WONDERFUL WORLD」を持って来てすっかりお茶を濁してしまう。だから中島にこーゆーのは合わないんだよっつーの!誰だ、こんなの持って来たヤツは。ガッカリの締めくくりだ。
とにかく中島美嘉って人は自然体でミディアム・テンポのバラードを歌っているのがいちばん美しいんだから、奇をてらったような小手先だけの装飾を施したりあんまりコネくり回したりしないで欲しかったというのが聴き終わった印象である。及第点はあげられるが、かろうじて、というところだ。
ただ、このところヘヴィ・ロテで聴いてるところを見ると、このアルバム決して嫌いではないらしい(笑)。